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ハラスメント対策最前線職場のメンタルヘルス問題に関する動向、最近の事例と企業組織の対応や留意点について(6)
東芝(うつ病)事件をご存じですか?
この事件の最高裁判決が、今年3月24日に出されました。その要旨については、産業保健スタッフ向けの冊子、労働者健康福祉機構発行の「産業保健21」第74号と第77号に、おさえておきたい基本判例として、木村恵子弁護士が非常にわかりやすく解説しています。その解説の中で、「本判決は、あくまでも当該個別事案に対する判断であるが、最高裁の判断であるだけに実務に与える影響も少なくないであろう」と述べられています。
似たような事例を抱えている企業は多々あると推察され、確かにその影響は大きいものと思われます。
この事件の概要
うつ病のために3年間私傷病休職し、休職満了により解雇となった社員が、仕事が起因でうつ病を発症した(業務起因)のであるから、解雇は無効であるとして会社を訴えた事案です。
平成23年2月に出された高裁判決では、うつ病発症は業務起因性と認められ、労働基準法19条の解雇制限により、解雇無効と判断されました。
今回の最高裁では、安全配慮義務違反などによる休業損害や慰謝料等の損害賠償額の認定において過失相殺の可否が争われた結果、会社側の安全配慮義務違反と判断され、過失相殺および素因減額は否定されました。
① 業務起因性
メンタルヘルスの不調の症状が出現したころの、その社員の時間外労働時間数は、月平均約70時間であったこと、さらに、業務内容はこれまでに経験のないものであったこと、さらにはトラブルが生じたりとかなりの負荷がかかっていたことが、うつ病を引き起こす要因になりうると捉えられたわけです。一方、業務以外に不調に陥る要因は認められないとして、「業務起因性」が認められ、業務上疾病の療養中の解雇は無効とされました。
② 過失相殺
社員は精神科に通院していたことを上司や産業医に話していませんでした。そのことが、会社側が、うつ病発症を回避したり、増悪を防止する機会を失わせる一因になったのではないかという争点に関しても、「メンタルヘルスに関する情報はプライバシーに関するものですから、職場では知られたくない情報」と認められました。
したがって、「メンタルヘルス不調者が自ら申告しなくとも、過重労働などのストレス状況下で心身の状態の悪化が看取されるときは、必要に応じて業務の軽減などの配慮をする必要がある。この安全配慮義務を会社側は怠ったのであり、その社員の業務負担は相当過重であったと認められる」ことなどから、損害賠償の認定において過失相殺は否定されました。
③ 素因減額
「その社員のうつ病発症や経過が長期化している状態に関して、当人が特別な弱さ(脆弱性)を有していたとは思われない」として、素因減額も否定されました。
この事例を踏まえた対策として、本人の申告がなくても、メンタルヘルス不調者をキャッチし、適切かつ迅速な対応を図らなければならないということでしょう。
・話しやすい風土作り
・産業保健スタッフの巡視
・ラインによるケア
・産業医相談の周知
・ストレスチェックの活用など
以上が、問題を拡大させないためのポイントになるのではないでしょうか?
(2014年8月)

苅部 千恵(かりべ ちえ)
所属 (かりべクリニック院長)
1980年 横浜市立大学医学部卒業
1980年 九州大学医学部心療内科勤務(九州大学医学部)
第一内科、第三内科、心療内科にて研修及び研究
1987年 東京大学医学部心療内科勤務
1994年 昭和大学医学部附属藤が丘病院勤務(兼任講師)
1995年 医療法人財団健生会勤務(理事)
1998年 かりべクリニック開業
| 【所属学会】 日本心身医学会 日本産業衛生学会 日本産業ストレス学会 日本心療内科学会 日本東洋医学学会 日本うつ病学会 |
【資格】 医学博士 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 心身医療「内科」専門医 |
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